2017-01-11

[この殺人本がすごい] 高田耀山『仁義の報復』

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 関根元の「埼玉愛犬家殺人事件」といえば風間博子の無罪主張とか、共犯者山崎永幸の証言とか、いろいろ謎の多い事件として知られているが、これに関して新しい本が出た。なんと関根に「透明にされた」ヤクザの組長による暴露本である。高田耀山『仁義の報復』(竹書房)である。いきなり開くと

「実はわたしは座禅と瞑想を続けたおかげで、チャクラが覚醒している。チャクラが覚醒した者のみが見える眼で関根の犯行がわかったのだ」

 とか書いてある。第三の目が開いたヤクザなのか! しかもこの高田組長(稲川会の直参で、本部づとめもしているかなりの大物である)、アフリカケンネルからライオンやトラを購入し、関根とは直接面識もあったというのだから期待はさらに高まる。十人以上殺しているという関根の真実ははたして暴かれるのか?
 高田によれば、遠藤(殺された組長代行)の失踪後、第三の目で関根が怪しいと見抜いた高田は、部下に命じて関根とつながりのあった新井良治をさらわせ、関根との電話による会話を録音する。そのやりとりで関根の関与を確信すると、さっそく報復に出ようとするが、それを察知した警察からの圧力で動けない。そこで逆にその会話の盗聴テープを警察に提供し、捜査を大いに進めたという。
 それ以外にも山崎を問い詰めたり、警察よりも早く事件の概要を掴んでいたとする主張多数。でもそのわりには公表されている以上の情報はないんだよなあ(十人以上殺していると書きながら、関根の犠牲者の名前が四人以上あがるわけではない)。チャクラ開いてるわりには関根にかまかけたり脅したりしてるばかりで、公表されてる以上の話がないんだよなあ……ただし共犯者山崎が警察と実質的な司法取引をして罪を逃れたという点はきっちり書いており、そのために暗躍した検事のその後の話まで書いてあるのは、まあ、警察には書けないことである。瞑想したり滝で水垢離したりしている高田組長の写真が満載されたとってもキュートな本である。なお、高田組長のブログはこちら

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2016-09-29

なんの映画になりたい?

 岡田秀則さんの著書『映画という《物体X》』(立東舎)を読む。われわれが当然のように見ている「映画」を「保存」するとはどういうことなのか、フィルムの物質的側面はもちろん、その外へと縦横に考えが広がっていく気鋭の書である。

 この本の元になった連載を読んでいたときに、いろいろ無駄なことを考えたことを思い出した。mixi日記からサルベージ。

 未来社のPR誌『未来』の3月号に載っていた岡田秀則の原稿(「草を食む映画」)が面白かった。映画フィルムに使われる乳剤の原料はいまだ合成されておらず、牛骨や牛皮から取れるゼラチンを使わなければならないのだという。「私たちがこれまで映画館のスクリーンに見てきたのは、どれもこれも牛の体内物質を通過した光の跡なのである」

 あるいは常識なのかもしれないが、ぼくは知らなかった。こういう話を聞くといろいろな夢想が進む。牛骨からゼラチンがとれるというなら、人骨からはどうなのだろう? たぶん量が足りないから映画は作れないだろうが、もし作れるとしたら?

 遺言に「ぼくの骨からは映画フィルムを作ってくれ」と書いておいたら、骨からフィルムを作って、それをみんなで見てくれないだろうか? これはいいね。少なくとも千の風になって漂ってるよりはずっといい。

 もしそれが可能なら、どんな映画になりたい? やはりファスビンダー(『十三回の新月のある月に』あたりがいいね)と言いたいところだが、コメディでもいいな。生きているあいだは他人への嫌がらせみたいなことばかりしていた身としては、せめて死んだあとくらいは笑ってほしい。ブニュエルで『小間使いの日記』とかどうかなあ。ぼくから作ったブニュエルを見て、みんな笑ってくれるなら、これほど楽しいことはないよ!

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2016-09-27

J・G・バラード短編全集1

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 東京創元社よりJ・G・バラードの全短編を集成した〈J・G・バラード短編全集〉が刊行になります。創元推理文庫から出ていた短編集も、さすがに翻訳が古くなってきたところもあり、あらためて新訳決定版を出そうということになりました。発表順に収録した全五巻での全集ということになります。

 装画にはエドゥアルド・パオロッツイを使用しています。バラードと伴走したポップ・アーティストの作品とともに、バラードのキャリアを走り抜けてください。

 なお、10/8(土)に京都SFフェスティバルにて「いまこそ、バラード。」と題してトークがあります。お近くの方は是非。


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2016-07-10

宇宙ヴァンパイアー

41t6xepvv5l_sx349_bo1204203200_ コリン・ウィルスンの『宇宙ヴァンパイアー』が新潮文庫の村上柴田翻訳堂で復刊されて、その解説がアレだという話を聞きこみ、そういう話には目がないのでさっそく買ってきた。巻末に村上春樹×柴田元幸の対談がついているわけだが。


村上 そうだと思う。この小説は、ぼくが割と好きなトビー・フーパー監督で映画化されてるんですよ。
柴田 面白い映画ですか?
村上 これがひどい映画でね(笑)。僕はその昔ホノルルの場末の映画館で見たんだけど、まあ、とんでもない映画で。
柴田 たしかに、「映画では原作の真の精神を生かし切れていない」とわざわざ原書ペーパーバック版の裏表紙に書いてありました(笑)。
村上 作品の雑多性を映画が表しきれなかったんですね。

 村上春樹おまえはなにもわかってねえ!てか村上春樹が何もわかってないことはよくわかっていたが、ここまでひどいとは。ちなみにこの前には

柴田 ほかにSFで特に惹かれる作家は誰かいるんでしょうか。
村上 ロバート・シルヴァーバーグとか……。フィリップ・K・ディックも割に好きですね。
柴田 J・G・バラードはどうですか。
村上 読みます。でも、ディックやバラードに深い思想や哲学などは求めないし、SF小説で深く考えてゆくということはないです。

 なんて会話もあって、あんたはドストエフスキーでも読んでてくださいよ本当に。しかし「割と好き」なトビー・フーパーっていったい何を見て言ってるんですかねえ……

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2016-06-05

三人目を探せ

Action 双葉社の〈漫画アクション〉、2016年11号(6/7号)から「三人目を探せ」っていうコラムを連載しています。なんと見開きのコラム。それも自由に書いていいと言われているのでオピニオンです。いやまあもちろんぼくの書くことなんで政治経済の話じゃあないわけですが……
 自由にさせてもらっているのを幸い、およそ読者のことを考えないコラムを書いています。いや、もちろん読者にはついてきてほしい。けれど今のアクションの読者の九割にとっては何を書いてあるのかちんぷんかんぷんなコラムでしょう。でもそれでも、ちょっとでも違和感を、ひっかかりを覚えてくれる人がいればいいなあ、と思って書いてます。まあそれがぼくを見込んでくれているアクションの新編集長Hくんへのせめてもの返礼かな、と。だから、とりあげるネタもいっさい妥協抜きで趣味に振り切ってます。ここまでまかされて、つまらないものは書けないですからね。隔週火曜日発売ですので、ぜひ目を通してください。第二回は6/7(火)発売の6/21号。ジャック・リヴェット監督『アウト・ワン』の話を書いています。

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2016-03-01

『ロデリック』刊行記念  柳下毅一郎×円城塔(ゲスト)トークイベント

 ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)の刊行を記念いたしまして、解説をいただいた円城塔さんとトークをさせていただくことになりました。場所は高円寺の文禄堂(旧あゆみbooks)です。ふるってご参加ください。

3/23『ロデリック』刊行記念  柳下毅一郎×円城塔(ゲスト)トークイベント

日時:3月23日(水)午後7時~ 会場:文禄堂高円寺店イベント会場

ご予約方法:入場料一律500円(ドリンクは含まれていません)
当日書籍をご購入していただいた方には柳下さん・円城さんのサイン可。
※当店で事前購入された方は書籍と一緒にレシートをご持参下さい。
①店頭 ②電話 ③Peatix(後日)にてご予約を承ります。※定員40名

 当日はおまけも進呈しようかなどと思ってますので、ふるってご参加を。

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2016-02-26

ロデリック(または若き機械の教育)

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 河出書房新社より、ジョン・スラデックの『ロデリック(または若き機械の教育)』が発売になりました。スラデックの最高傑作であるロボットSF長編、発売予告を出してから××年……本当にお待たせいたしましたが、ようやく完成いたしました。待った甲斐はあった、と思っていただける……といいなあ。なお、発売記念のイベントも予定しております。正式に決まりましたら告知させていただきますので、みなさまご参加いただけますよう。


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2016-02-24

柳下毅一郎の特殊な本棚

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 本の雑誌に連載していた書評コラムが『柳下毅一郎の特殊な本棚』と題して電子書籍にまとまりました。完全版ではありません……というのは連載初期の分は『新世紀読書大全』のほうに収録してしまったからです。なお、電子書籍オリジナルで、紙の本というのはありません。中身は諸々ですが、まあだいたい殺人に関するほんの邪悪な紹介です。各電子書籍サイトからご購入ください(発売日とかがはっきりしないので、ダウンロード可能になりしだい順次追加してゆきます)。

Kinoppy  honto amazon  kobo  iBookstore  e-bookjapan GALAPAGOS STORE 本よみうり堂デジタル

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2015-11-03

『皆殺し映画通信』kindle版

『皆殺し映画通信』『〜 天下御免』のkindle版が発売になりました。なんでこのタイミング…?とか高いんじゃないの?とかいろいろご意見もあるかとは思いますが、まあそこはひらに……なお、中身は基本的にWeb版と同じですので、サンプルをご希望のかたはWebのほうをチェックしていただければ。そちらなら¥350でバックナンバーまですべてチェックできるのでお得ですよ。

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2015-09-21

アテナイ人の行政組織と慣習

 高橋源一郎×SEALDsの『民主主義ってなんだ?』という本を読んだ。国会前に集まっている学生たちの主張が聞ける本で、なかなか興味深いものだった。これ読むと、少なくとも彼らはものすごくものを考えてることがよくわかる。ほとんどの批判者はここまで考えてないよね。もうちょっと応援していきたい、という気にはなる。

 だが、ぼくがこの本を読んでいて気になったのは、まったく別な部分である。この中で、高橋源一郎が、古代ギリシアの直接民主制について語っている。アテナイの民会では


「いわゆる憲法はなかったんだけど、基本法みたいなものはあった。だから、提出した議案がその基本法から外れていると認定されたら、裁判にかけられる。民衆裁判所という所に送られて、最高で死刑。つまり、議案を出すとき真剣にやらないと死刑になっちゃう。違憲の法案を提出したら古代ギリシアじゃ死刑(笑)。
(中略)
民会は国会だけれども、いわゆる行政を専門とする人たちがつくる政府はない……では役人とか官僚とか、そういう行政を担当する人間はどうするか。これは有名だけど、くじ引きなんだよね。すべてのアテナイの市民にその可能性があって、その上でざっくり資格審査がある。そしてものすごい数の有資格者の中からくじ引きで選んで、任期も一年でおしまい。なぜかというと、金や接待による癒着を防ぐため」

え、これってカミロイ人ではないか! カミロイ人というのはR・A・ラファティの「カミロイ人の初等教育」「カミロイ人の行政組織と慣習」(『九百人のお祖母さん』)所収)に登場する宇宙人たちである。
「一般世論が愚劣と認めた法律に、三つまで名を連ねた公民は、一年間公民権を失うの。二度公民権を失ったものは切断の刑にあい、三度目には殺される。この規制は行き過ぎじゃないわ。それまでに、その公民は九つの愚劣な法律に関係しているわけだもの。それだけでもう充分でしょう?」
--「カミロイ人の行政組織と慣習」

 カミロイ星というのはアテナイのことだったのか! ラファティのことだから、これはたぶん知ってて書いたんだろうなあ。ひとつ利口になった。

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