2018-04-23

霊感刑事の告白

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『霊感刑事の告白』 の著者は元宮城県警の警視正までつとめた叩き上げの名刑事である。だが、彼の数々の成果はすべて霊界からのメッセージによるものだった……!という衝撃の一冊。筆者は宮城県気仙沼署の刑事課長に就任したのは昭和53年、45歳のとき。妻子を仙台市内においての単身赴任で、ついに夢だった刑事課長への昇進をはたした。順風満帆。ところが赴任してから二ヶ月ほどして、ラジオから声が聞こえだす。そのうちにテレビや電話機などから次々に呼びかけられるようになるのである。ついに狂ったか……!?
普通に考えたら新たにおった責任の重さと単身赴任による新生活のストレスから幻聴を聞くようになったのかと考えるところである。筆者も悩み、しまいに自殺まで考えるのだがすんでのところで思いとどまり、これはあの世(霊界)からのメッセージだと考えるようになる。なんせ刑事ですからね、殺人事件があれば犠牲者の声を聞いて犯人を探してしまう。間違いようがない。アパートで幼い娘と母親が死んでいた事件では、当然疑いの目は第一発見者である父親に向けられる。だが「死体はなんでも知っている」のである。母親の
「……違います。夫ではありません。私が殺しました、間違いありません」
という声を聞いた筆者は、母親による無理心中だと確信して、事件を解決に導いたのである!

 いろんな部分で村崎百郎の文章を思い出してしまったりしてなかなかおもしろかった。なお、あるとき御仏の声として延々と数字が読み上げられるのを聞いた著者は、その意味を訊ね
「すべての人間は固有の番号で一人ひとり登録されている。その番号で生まれてから死ぬまで管理される。今、読み上げられている番号の人は、読み上げられた直後に死ぬことになっている」
と教えられるのである。まさかの霊界マイナンバー制にはちょっとやられたのだった。

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2017-06-10

[この殺人本がすごい] 深笛 義也『罠 埼玉愛犬家殺人事件は日本犯罪史上最大級の大量殺人だった!』

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関根元の埼玉愛犬家殺人事件にまつわる本がまた出てしまった!高田耀山『仁義の報復』は関根に舎弟を透明にされてしまったヤクザの組長が書いた本だったが、今度は三里塚闘争にも参加していた過去を持つ新左翼活動家崩れのルポライターといういかにもゴールデン街あたりに吹き溜まっていそうな作家だ。深笛義也『罠 埼玉愛犬家殺人事件は日本犯罪史上最大級の大量殺人だった!』(サイゾー)である。

 埼玉愛犬家殺人事件においては、関根元と風間博子に死刑判決が出て確定、共犯者だった山崎は死体損壊の罪で三年服役した。関根が獄中死したのも記憶に新しい。さて、この事件にはいろいろと問題があるのだが、その最たるものが風間の役割である。風間は死体損壊遺棄は手伝ったものの、殺害には一切関与してないと一貫して主張している。だが、裁判では関根の証言に基づき、風間が殺人の共犯者と認定された。風間は現在も無罪を主張し、再審闘争を続けている。

 筆者はたまたま風間の支援者と知り合いになり、膨大な裁判資料を渡されたことから裁判に興味をいだいたらしい。資料を読みこむうちに、検察の作ったストーリーの不自然さに気づいてしまう。つまり、風間は殺人のことなど何も知らず、事後従犯としていやいや死体損壊(透明にする!)につきあわされただけではなかったのか。山崎が語って有名になった、中村美律子を口ずさみながら死体を切り刻む風間の姿は文学的創作ではないのか。高田組の組長代行殺害の共犯は山崎ではなかったのか。もしそうだとしたら、誰が、なぜ風間が主犯であるというストーリーを作りあげ、なぜそれがまかりとおってしまったのか。

 その意味で、事件の真のキーパーソンは埼玉地検の岩橋検事なのではないか……と筆者は岩橋検事に直接取材も試みる。さすがは元活動家だ! 風間の息子や二人のあいだの娘の率直な肉声も聞こえ、なかなかに興味深い。

「事件を知ってすぐに、風間が警察に相談をしていれば、判決はまるで違ったものになっていたかもしれないのだ。早い者勝ちで有利な判決が得られるなら、裁判とはいったいなんなのだろうか」
風間博子はなおも無罪の訴えを続けている。


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2017-06-02

スキップ・ホランズワース『ミッドナイト・アサシン』

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 ぼくがスキップ・ホランズワースの名前を知ったのはBest American Crime Writingsのシリーズを読んでいたときである。〈ニューヨーカー〉や〈エスクァイア〉といった雑誌に並んで、〈テキサス・マンスリー〉という地方雑誌の記事が再録されている。そこでメジャー雑誌にまさるともおとらぬ見事な犯罪ルポを書いていたのが〈テキサス・マンスリー〉のエース記者であるスキップ・ホランズワースだったのだ。簡潔な文体と行き届いた取材、意表を突くプロット。犯罪ノンフィクションのお手本のような名品ばかりである。多くは〈テキサス・マンスリー〉から出ているアンソロジーで読むことができる
 そのホランズワース、初の長編ノンフィクションがようやく出版された。『ミッドナイト・アサシン』は一八八四年、テキサス州オースチンで発生した「アメリカ初の連続殺人事件」についての本である。疾風のようにあらわれて証拠を何一つ残さず消えてしまう殺人鬼、実はさる事件との関連が疑われることになるのだが……たいへん面白い本なので是非。ぼくは解説を寄せさせていただいております。


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2017-01-11

[この殺人本がすごい] 高田耀山『仁義の報復』

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 関根元の「埼玉愛犬家殺人事件」といえば風間博子の無罪主張とか、共犯者山崎永幸の証言とか、いろいろ謎の多い事件として知られているが、これに関して新しい本が出た。なんと関根に「透明にされた」ヤクザの組長による暴露本である。高田耀山『仁義の報復』(竹書房)である。いきなり開くと

「実はわたしは座禅と瞑想を続けたおかげで、チャクラが覚醒している。チャクラが覚醒した者のみが見える眼で関根の犯行がわかったのだ」

 とか書いてある。第三の目が開いたヤクザなのか! しかもこの高田組長(稲川会の直参で、本部づとめもしているかなりの大物である)、アフリカケンネルからライオンやトラを購入し、関根とは直接面識もあったというのだから期待はさらに高まる。十人以上殺しているという関根の真実ははたして暴かれるのか?
 高田によれば、遠藤(殺された組長代行)の失踪後、第三の目で関根が怪しいと見抜いた高田は、部下に命じて関根とつながりのあった新井良治をさらわせ、関根との電話による会話を録音する。そのやりとりで関根の関与を確信すると、さっそく報復に出ようとするが、それを察知した警察からの圧力で動けない。そこで逆にその会話の盗聴テープを警察に提供し、捜査を大いに進めたという。
 それ以外にも山崎を問い詰めたり、警察よりも早く事件の概要を掴んでいたとする主張多数。でもそのわりには公表されている以上の情報はないんだよなあ(十人以上殺していると書きながら、関根の犠牲者の名前が四人以上あがるわけではない)。チャクラ開いてるわりには関根にかまかけたり脅したりしてるばかりで、公表されてる以上の話がないんだよなあ……ただし共犯者山崎が警察と実質的な司法取引をして罪を逃れたという点はきっちり書いており、そのために暗躍した検事のその後の話まで書いてあるのは、まあ、警察には書けないことである。瞑想したり滝で水垢離したりしている高田組長の写真が満載されたとってもキュートな本である。なお、高田組長のブログはこちら

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