ジェネシスとレディ・ジェイのバラード (2011)
監督:マリー・ロジェ 出演:ジェネシス・P-オリッジ イメージフォーラム2011にて
スロッビング・グリッスルのリーダーにしてインダストリアル・ミュージックを生みだした立役者ジェネシス・P・オリッジについてのドキュメンタリー。だが、これはインダストリアルの歴史を語るドキュメンタリーではない。「墓碑銘にはアーティストではなく、世界一の恋愛をした男と書かれたい」男についての映画なのだ。
ジェネシスPは1995年、ニューヨークでパフォーマンス・アーティストだったレディ・ジェイと出会う。二人は一目で運命の恋に落ち、まもなく結婚。だが、一味違うのはそこからだ。「子供は二人の人間が一人の新しい人間を産み出すことだ」と喝破した二人は、それなら別に子供でなくとも新しい人間を産めばいいのでは?と考えはじめる。ジェネシスとレディ・ジェイが共に変形して生まれる新たな人、それはパンドロジェニーという。二人は互いに相手に似せて整形し(レディ・ジェイは鼻を直し、ジェネシスPはほくろに合わせて刺青を入れた)、やがてそっくりの胸を持つようにと二人で豊胸手術をする。麻酔から覚めたとき、ジェネシスPはレディ・ジェイの手をとっていった。「ぼくらは天使の肉体を手に入れたね」
ジェネシスPは人間を超克しようとした。そのための手段として人間そのものをカットアップすることを思いついたのだという(ブライオン・ガイシンから「カットアップは二つの文章から誰のものでもない第三の作者による文章を作り出す」と言われたことがヒントになったのだとか)。だが、ジェネシスPが単なる人ではないものになれたとしたら、それは人間の彫刻ではなく愛によってである。映画のテーマ・ソングに使われているI love you, I know (Psychic TV のMr.Alien Brain vs The Skinwalkersに入っている)のジュ・テーム・モア・ノン・プリュ・フロム・ヘルとでも言うべき禍々しい響きが忘れがたい。
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