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2011-03-30

ファン・ホーム~ある家族の悲喜劇

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 これは、こういう話である。

 筆者(アリソン・ベクダル)にとって父は魔法の手を持つ『若き芸術家の肖像』のディーダロスだったが、父は自分のことを『華麗なるギャツビー』のジミー・ギャッツになぞらえていた。美しいがどこかよそよそしく、素人演劇に身を投じる母親のことを、アリソンはヘンリー・ジェイムズの『ある婦人の肖像』のイザベル・アーチャーのようだとも思う。アパラチア山脈の中の田舎町で葬儀屋を営むベクダル家には、表面からは見えない多くの秘密がある。アリソンは成長の過程で、秘密のヴェールを一枚ずつはがしてゆくように、その真実を学んでいく。まるでジョイスの、あるいはプルーストの小説のように、物語には(人生には)いくつもの層があり、どこまでも奥深いものなのだ。

 これはアリソンの自伝であり、心を通わすことのなかった父親の伝記であり、文学論でもある。コミックというメディアで、『失われた時を求めて』を自分の人生と重ね合わせて論じるだなんて、誰が考えただろう! だが、アリソンは大学で出会うどんな英文学の教師よりもジョイスを生きているのである。アリソンと父とは結局わかりあえなかった。だが、文学を通じてなら、人は通じあえるかもしれない。すべての文学愛好者にお勧め。翻訳者、椎名ゆかりの仕事も素晴らしい。

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