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2010-10-31

玄牝 (2010)

 朝日新聞10月29日夕刊に河瀬直美監督作品『玄牝』の映画評を書いた。本作は愛知にある吉村医院を追いかけたドキュメンタリー。河瀬直美+吉村医院ということで、どんな怖ろしいものができているのかと恐怖に駆られた人も多いのではないか。

 吉村医院は自然分娩を標榜し、一部で熱狂的な支持を受けている産院である。その一方で妊婦と胎児を不必要に危険にさらし、周辺の医院に無用な負担をかけている、とする意見もある。以下のような議論を参照していただきたい。信仰と狂気~吉村医院での幸せなお産
その二

 見る前は「お産ともなると精神的なものも大きいし、精神ケアとしてはありかな」くらいに考えていたんだが、映画がはじまって五分くらいで「こりゃないわ」と思ったよ。 吉村医師はこんな調子なのだ。

「今のお産が異常なのは、社会が異常だからだよ。江戸時代ぐらいの社会に戻れば、お産の異常なんかなくなる……医者がお産は危険だ危険だっていうから妊婦が不安になる。不安のせいで異常なお産になるんだよ」

 しまいに「(母親も)自然な出産で生まれた子供のことは愛せる」って言い出すんだけど、それはつまり不自然な出産(=帝王切開とか)の子供は愛せないってことだよな? 生まれる前からそんな呪いをかけられた母子の身にもなってみろ、という。

 ところが映画としてはこれがなかなか面白いのだ。河瀬直美は自分でも自然分娩で産んだ(その瞬間を映画に撮った!)くらいの人だから、基本的には吉村医院とそこに集う妊婦たちにシンパシーを抱いているのだが、同時に吉村病院のほころびも撮ってしまっている。結局自然分娩で出てこなくて、救急車で近くの病院に搬送されて帝王切開で出産した妊婦とか、吉村医師が「神の摂理なんだから死ぬものは死ぬんだ」って言い放ってるとことか、助産婦の一人が、自分の妹が「ここの妊婦にはついていけない」と感じて吉村医院での出産を拒んだことを告白するとか。あきらかに河瀬直美のドキュメンタリスト魂が本人の思想を裏切っている。結果として吉村医院のカルトっぽさが浮かび上がってきているのである。

 とはいえ、もともとこういう世界にシンパシーを抱いている人にとっては、美しい映像とリラックスした妊婦たち(どいつもこいつも森ガールばっかりなんでワロタ)の姿は魅力的に映るだろう。だからプロパガンダとしてはたらくのも否めない。要するに両義的なのであり、それが優れたドキュメンタリーだということなのだ。いろいろ考えさせられるのは間違いないので、みなさまに強くお勧めしておく。

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2010-10-30

ポランスキーとスコリモフスキー

 今年の東京国際映画祭ではロマン・ポランスキーとイエジー・スコリモフスキーの新作が上映された。戦後ポーランドを代表する巨匠二人の新作が、ここ東京で競演することになるという不思議。この二人、ウッジ映画大学の同窓生で(年はスコリモフスキーの方が五つ上だが、ほぼ同級生らしい)、脚本も共作している(『水の中のナイフ』)くらいなのだが、どうもあまり仲良さそうに見えない。二人は共に国を棄て、その後イギリス→アメリカと同じようなコースをたどることになるのだが、近いところにいても軌跡が交差した様子はない。インタビューでもほとんどお互いのことは言及しない。はたから見ていると不自然なくらい冷えた関係に見えるのだ。コメダ絡みの三角関係とかそんなのかなあ、とかいろいろ妄想は膨らむのだが。

 ベルリンで絶賛されたポランスキーの『ゴースト・ライター』はブレア英国首相(ピアース・ブロスナン)がイラク戦争における捕虜拷問の罪を国際司法裁判所に告発される話。スコリモフスキーの『エッセンシャル・キリング』はヴェネツィアに出品されたんだが、こっちではヴィンセント・ギャロがアルカイダの戦士になって必死で逃げまわる。もちろんギャロは水責めの拷問もされる。なんだろうこの偶然は。しかもブロスナンは「国際司法裁判所に加盟してない国は?イギリスに戻ると逮捕の可能性があるけど、アメリカにいるかぎりは大丈夫だ」なんて言いだす。もちろん、間違ってスイスに行くと逮捕されちゃうわけだけど!

 ちなみにポランスキーの愛妻エマニュエル・セイナーはスコリモフスキーの方に出演している。なんなのだろうね、この関係は!

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2010-10-27

「大森望のSF漫談 」VOL・9 ゲスト:柳下毅一郎

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 J・G・バラードの自伝にして最後の著作『人生の奇跡』が東京創元社よりようやく発売になりますが、それを記念して(プラス大森望氏編集の『ゼロ年代日本SFベスト集成』刊行を記念して)トークショーをおこなうことになりました。〈大森望のSF漫談〉のゲストに呼んでいただいたかたちです。

開催日時 2010月11月10日(水)19:00~
会場:青山ブックセンター六本木店
電話予約&お問い合わせ電話:青山ブックセンター六本木店 03-3479-0479

 いつものお立ち見イベントですので、話を聞きたいというだけでしたら特に予約とかは不要ですが、サイン会にご参加希望の方は諸注意ございますので青山ブックセンター告知ページをご確認ください。

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2010-10-11

デス・プルーフ in グラインドハウス

 10/9~16の日程で、新百合ヶ丘の川崎市アートセンター、ワーナー・マイカル・シネマズ新百合ヶ丘にてしんゆり映画祭2010がおこなわれておりますが、その中で上映されるクエンティン・タランティーノ監督の『デスプルーフinグラインドハウス』の上映後、トークをさせていただくことになりました。この21世紀の傑作をよもや見ていない人はいないでしょうが、ご近所の方は是非足をお運びください。

10/16(土)19:40- 川崎市アートセンター アルテリオ映像館

 前売り券は川崎市アートセンター2Fチケットカウンターまで。トークは上映後になります。

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