Three Miles North of Molkom... (2008)
久しぶりのロンドン。主目的は『フロム・ヘル』出版前に切り裂きジャックを再訪しようということだったんだけど、当然それだけで済むわけもなく、映画と書店三昧。Three Miles North of Molkomというドキュメンタリー映画を見る。
Mollkomというのはスウェーデンの田舎町なのだが、そこから三マイル北にいった森の中で毎年数千人のヒッピーが世界中から集まってくるNo Mind Festivalなるヒッピー祭りが開かれるのだ。そこでは自然を愛し、自分の身体について学び、タントラ・セックスを学ぶ。つまりフリーセックスなのである。別にそれを推奨してるわけではないんだろうけど、男女が裸でゴロゴロしてればやることはやるわな。おそらくそれ目的で来てる奴もいると思われるが、大多数は真面目なヒッピーで、森に入って木を抱きしめて自然と交感したりしている。いかにも馬鹿馬鹿しい……だが、これがなかなかどうして面白いのだ。
ドキュメンタリーにはフェスティバル参加者である七人の男女が登場する。世界中から集まってきたバックグラウンドもさまざまな男女が、ワークショップを経験していく中でどう変化していくかが描かれるのだ。オーストラリアから来た元ラグビー選手は「あなたの痛みを愛するだって?こんなくそヒッピーな戯言はねえよ!」とか毒づいているが、火渡り(Firewalk)の儀式を経験してからはすっかりハマりこんでグループの優等生になる。人生でつねに負け組だったというスウェーデン人の元ソーシャルワーカーだかの中年女が、上から目線が鼻持ちならないグループのリーダー「シッダルタ」についに反抗する場面は痛快だ。その「シッダルタ」が実は非モテだったと判明する場面は泣ける。
外気功で吹き飛ばされて痙攣してみせるインストラクターを嗤うのはたやすい。だが、「やる側が本気で信じてないと気功は効かないんだ」というインストラクターの言葉は多分本当だ。信仰体系としてはこれは何ひとつ間違っていないのだ。ワークショップの過程で参加者はかならず何かしら神秘体験をし、何かしらの悟りを開く。頭で考えているとただくだらないだけで、なぜこんな戯言にみんなひっかかるんだろうとか思ってしまうだろう。だが頭でどんなに馬鹿にしても肉体的鍛錬は裏切らない。そして神秘体験はつねに肉体的なものなのである。人間がそういう存在である以上、このヒッピーたちが見ているものもやはり「真実」なんじゃないか、と思うのだ。
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