いんび変態若妻の悶え (2009)
監督:荒木太郎 出演:淡島小鞠、野村貴浩 原作:太宰治「きりぎりす」 PGの作品紹介 上野オークラにて鑑賞
太宰生誕100年ということで、『人間失格』やら『ヴィヨンの妻』やら『パンドラの匣』やらと映画界はかまびすしいが、ひとつ忘れちゃいないかね? というわけでこういうときには世間の流れに便乗するのがピンク映画魂。文学青年の心いまだ抜けやらぬ荒木太郎が監督・脚本で太宰治の「きりぎりす」をピンク映画化である。
「きりぎりす」は売れない画家の妻の独白というかたちをとった短編小説。世に入れられない画家の元に「この人の絵を理解できるのは自分だけだ」の思いで嫁いだ妻だが、やがて画家の絵が売れて、男が俗物の本性をあらわにすると我慢できなくなって夫を捨てるのである。
荒木太郎お得意の8ミリ映像や、静岡の一軒家のロケセット(なんと美濃瓢吾氏のアトリエらしい)も、時代を超越した空気をただよわせ、太宰の空気を現代に持ち込む点ではなかなか健闘している。淡島小鞠演じるヒロインは少々微妙で、というのは粗筋からもわかるように彼女はほとんど異常なほどに夫に尽くす女性なので、これはどう見てもマゾヒスティックな女優でなければならない(つまり『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』のイルム・ヘルマンのような)。その点でいくと、残念ながら淡島小鞠は顔も演技も可愛い女すぎるのだ。
気になるのはピンク映画としての脚色の拙さ。濡れ場の持ち込み方が他になかったかなあ、と思われる。ヒロインが最初に画家の絵を見て「蓮葉な事で、からだが燃えるように恥ずかしく思いました」場面では、本当に股間をおさえて悶えてみせるのだが、、それはギャグだろう! あとヒロインをモデルに絵を描く場面とかも、あんなに下品な濡れ場としてではなく、もうちょっと美しく撮ってもよかったのではないか。あそこが最大のクライマックスなのだから。
……などと文句ばかり言っているが、近年のピンクでは出色の意欲作ではある。とりあえず太宰百年を言祝ぐなら、まずこれを見ておきたいところであるよ。
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