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2009-05-30

ニコラス刑事 in バンコック・デンジャラス (2008)

監督:オキサイドー&ダニー・パン 出演:ニコラス・ケイジ

 これパン兄弟の98年作品のリメイクだったんだね。実物見るまでパン兄弟の映画だとは知らなかった。最近はすごい日本映画ばかり見ているが、世界の映画も同じくらいすごいということを教えてくれるのが怪しいタイ人監督パン兄弟。これはまちがいなくタイ版『レイン・フォール/雨の牙』だ! なんせヒロインの名前がタイ語で「雨」というのだ!

 ニコラス刑事は話は一滴のミスも許されない命中率百パーセントの凄腕殺し屋。ひとつの町では殺しは四件と決め、四件終えると次の町へと旅立つのだ。バンコクの片隅に隠れ家を構えたニコラス刑事(役名はない)はひっそりと誰にも関わらないで暮らす。いつも孤独に一人飯、だがそれにももう慣れた。だがあまり孤独だと人間が空気になってしまうので、町に出て人を見なければならない…ってカメラ片手にソイ・カウボーイかなんかに出かけて写真パシャパシャやってるどう見てもただの観光客なニコラスさん。

 ニコラスさん、たまたま怪我を負って薬局に行き、そこで聾唖者の店員に親切にされたもんでたちまち舞い上がって恋をする。でもタイ語喋れないし……とデートに誘いたいけど誘えないので店の前でうろうろしていたり。やっとデートに誘うと「タイ料理から~い」と苦笑い……いったいどこらへんが「堅気の人間とは関わらない」を家訓にしてる天涯孤独な殺し屋なのか小一時間問い詰めたい。

 しまいに使いっ走りで仕事が終われば始末するはずだったチンピラを「目に自分と同じものを見たからだろうか…」とか言い出して弟子にする始末。バンコクの雑踏の中を歩きながら
「おい、赤い服の男が見えるか?」
「え、赤い服なんかいませんよ」
「よく見ろ。町には鏡もあれば窓もある。自分の後ろの目で見るんだ!」
『レインフォール』でもキッペーがハセキョーにわけわかんない殺し屋の心得を伝授していたこれもまったく同じ! ということはこの魅力のない聾唖のヒロインはタイのハセキョーのようなものなのでしょうか?(デート中ニコラスさんが強盗に襲われてあっという間に相手を撃ち殺すが、彼女の方は耳が聞こえないので後ろで起こっている惨劇に気づかないという場面はワロタ) これが日本で公開されるというなら、ぜひ『レインフォール』も「ゲイリー・オールドマン主演の殺し屋アクション」と銘打ってタイで公開して欲しい! そしてこの映画に金を払ってしまったオレの仇をタイ人から取ってくれ!

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2009-05-28

エル・スール (1983)

 下高井戸シネマに『エル・スール』を見に行く。最近弛緩しきった日本映画ばかり見てるから、もう闇に沈んだ人物カットを見ているだけで溜息が出る。かと思うと「エン・エル・ムンド」がかかる二度の場面の素晴らしい長回しがあって、ひたすら至福。映画っていいなあ。

 昔ぴあに原稿を書いたことを思い出して探してみた。『シー・ユー・ネクスト・サタディ』に収録したが、この本ももう絶版だし、ここに載せておこう。

 スペインにも寒い土地があるんだ、と最初に教えてくれたのはビクトル・エリセの映画だった。『エル・スール』とはスペイン語で「南」という意味だが、この映画の舞台はスペインの北部である。北で生まれた主人公の少女は「南」を見たことがない。
 スペインというとつい地中海に面して暖かくラテンなところと思ってしまうのだけれど、本当は北部もあるし雪も降る。『エル・スール』ではいつも空はどんよりと曇り、決して爽快に晴れることがない。だが「南」はこんなところではないのだという。そこは冬でも雪が降らず、夏には暑くなって日陰でやり過ごす以外何もできないところなのだ。少女にとっての「南」はそんな不思議としてはじまる。だが、そのうちに「南」には新たな意味が生まれる。「南」は最愛の父親の生まれ故郷であり、そして父が捨ててきた場所なのだ。まだ見ぬ「南」は彼女が知らなかった父親の一面として、少女の前にあらわれる。「南」とはどうしても手が届かぬところにあるものすべてなのである。ついに「南」へ旅立つとき、少女は大人になるための一歩を踏みだす。南の民謡として少女が聞く「エン・エル・ムンド」のもの悲しいメロディが忘れがたい。

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2009-05-26

Esquire Japan Farewell Party


  Esquire Japan Fairwell Party 
  Originally uploaded by Garth Yanashita.

 Esquire日本版もとうとう本年七月号をもって終刊。本日は終刊記念のパーティ。というかオープンオフィス。青山一丁目の豪華なオフィスを訪ねてきた。

 Esquireの休刊については、もっぱら金融危機と広告費削減がらみで語られがちなんだけど、実は休刊号まで含めてかなり広告は入っていた。Esquire単体では最後まで黒字だったという。だから危機はどちらかというと会社(Esquire Magazine Japan)自体の問題で、とりわけ半年でつぶれちゃった女性誌の失敗とかが響いたらしい。黒字とは言ってもこのバブリーなオフィスと大勢のスタッフを支えきれるほどではなかったということだろうね。

 ぼくとしても十年以上書いてきたホームグラウンドだけに寂しい。最初に招いて書かせてくれた美人編集者T嬢のことを思い出し、少々センチな気分になったりもする。ところでパーティで久しぶりにあった美人映画ライターK嬢がお腹が大きくなっていたのにはびっくり。終わるものがあれば新しく生まれる命もある。K嬢の産休があける頃には復刊していることを祈りたいものだ。

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2009-05-24

Esquire 2009/07

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 現在発売中の〈Esquire〉2009年7月号「未来に伝えたい100のこと」で映画の未来について書きました。未来予測だけどSFじゃありません。あと、レギュラーの映画評では『レスラー』について書きました。最後なので書きたいことを思いっきり書かせてもらいました。そう、これがEsquire日本版の終刊号になります。10年以上にわたって書かせてもらい、本当にありがとうございました。

 同じく発売中の〈映画秘宝〉2009年7月号では書評欄で『ガルシア・マルケスひとつ話』(書肆マコンド)をとりあげさせていただきました。すっごくキュートな本なので、みんな読んでほしいな!

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2009-05-20

J・G・バラード追悼

 本日5/20(水)発行の朝日新聞夕刊に去る4/18に死去したJ・G・バラードの追悼文を書きました。「汚染された人間の生を予言」というタイトルで掲載されます。バラード的な世界の到来について、思うところを書きました。是非お読みください。

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Il vento e le Rose ~愛するということ (2009)

監督:知らない 出演:叶恭子さま 製作:愛するということ製作委員会 公式サイト

 これ、実は恭子さまは主演ではありません。主役はよく知らないイタリア人の女子学生。よなよな湖畔の古城で剣をもった中世の騎士が立っているという北欧メタルみたいな夢に悩まされている花売り娘は、ある日、郊外のヴィラに薔薇の花束を届けるように言われる。そこには美しい女と彼女にかしづく男が住んでいるのだった。美女の奔放なセックスを見た花売り娘は我知らずおののきを覚え……

 まあ『O嬢の物語』をヌルくしたようなというか、撮影素人と違うんかちゃんと照明当てないから真っ暗だろというか、まあそういう話なのですが、特筆すべきはこれ、出演者みなイタリア人ばかりでイタリア語と英語しか使われない。で、そうなると必然的に怖ろしいことが……そう、恭子様のセリフがなくなってしまうのです! 全編で恭子さまのセリフはふたつだけ。その内のひとつは、恭子様に捨てられた男が「きみに捨てられるなら死んでやる!」というのに対して
「ん~やれば。あんたの人生だし」
と言うだけ! 言葉喋らないで、テーブルの向かいに座った男の足を蹴っ飛ばして誘ったりするだけなんで、ほとんど白痴の色情狂みたいだった。まあそのとおりだという説もありますが。

 まあこれもいいんですが、やはりここは『蜜の味』の映画化をキボンヌ。その際はもちろん恭子様にセーラー服着て高校時代を演じていただきたいものですね!

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2009-05-16

映画館大賞

 全国110館の映画館スタッフが投票で選んだ〈映画館大賞〉栄えある第一位は故ヒース・レジャーがバットマンの宿敵ジョーカーを演じてアカデミー賞を獲得した『ダーク・ナイト』。これを記念しての上映が5/22(金)21:05から渋谷ユーロスペースでおこなわれますが、そこで映画について話すことになりました。『レイン・フォール/雨の牙』とは一味違うゲイリー・オールドマンの姿を見に来て下さい。

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2009-05-06

ACL第5節 鹿島3(2-0)0水原三星@鹿島スタジアム


ACL Kashima vs Swon
Originally uploaded by Garth Yanashita.
 GWなので鹿島まで行ってきた。席はメインアウェイ側1列201ということでコーナーフラッグの真ん前。野沢のCKを至近距離で観られるというわけで普段ならホクホクなのだが、大雨……

 水原にはアウェイで1-4で完敗しているので、取り返すためには最低でも3点はとらなければならない。雨だと鹿島には不利かと思ったんだが、結局は基礎技術の差が出て鹿島には有利だったかもしれない。水原はJリーグの中堅どころくらいの強さという印象だった。清水とか神戸くらいの感じ。当然ベタ引きしてくるものと思ったが、普通にラインをあげて前からプレスをかけてきた。だが、雨でスローになった試合展開では鹿島の思うつぼになってしまった。見事にイタリア式リアリズム(ネオ・レアリスモ)を発揮した鹿島がきっちりお仕事して最低の義務を果たす。しかも点はセットプレー、DFのクリアミス、カウンター。毎回思うけど、これやられた方は本当に凹むだろうねえ。実に嫌らしい勝ち方だよな。

 鹿島のこの嫌ったらしい強さだけど、要するに90分間同じことをやりつづけられるってことだと思う。ムラがないから、ちょっとでも隙作るとやられちゃうんだよね。言うのは簡単だけどそれを実行できる集中力はなかなか保てない。その点では今日はやっぱり小笠原が凄かった。つねに最初にボールアタックに行きつづける運動量はさすがとしか言いようがない。最近の鹿島につきまとうのが小笠原の後継者問題なんだけど、今日なんか40歳くらいまでやりそうな勢いだった。

 前半だけで変えられてしまった篤人はどうもありえないパスミスを連発していて、オーバートレーニング症候群の疑いが。

 水原のサポは少人数でずぶ濡れになりつつたいへん気合いの入った応援を展開しておられました。

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2009-05-04

GOEMON (2009)

監督・脚本・撮影監督・編集・出演:紀里谷和明 出演:江口洋介とCGのみなさん 5/1公開

 オレにコピー書かせてくれたら「ついにPS2を超えた驚異の新世代映像!」とか「これは『GOEMON』ではない、GOUMONだ!」とかいろいろいいのを考えてあげたんだが。まさか『CASSHERN』よりもつまらない映画を作ってくるとは思わなかった。「キリキリ、おまえに底はあるのか!?」

「ぱんどらのはこ」の意味が違わねえか?とか、いまどきゲームでもあの草原はねーよとか、CGの人間が走ってるのを真横から撮るのやめようよ、ハイパーオリンピックじゃないんだから!とか、広末、光あてすぎて顔の凹凸がなくなってるよ!とかいろいろあるわけですが、いちばん言いたいのはね、キリキリ、飛び上がった人間が月にかかるのってやめようよ。それ格好いいと思ってるみたいだけど、ダサイから! 『E.T.』のときだってダサイものだったんだから!

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