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2009-05-28

エル・スール (1983)

 下高井戸シネマに『エル・スール』を見に行く。最近弛緩しきった日本映画ばかり見てるから、もう闇に沈んだ人物カットを見ているだけで溜息が出る。かと思うと「エン・エル・ムンド」がかかる二度の場面の素晴らしい長回しがあって、ひたすら至福。映画っていいなあ。

 昔ぴあに原稿を書いたことを思い出して探してみた。『シー・ユー・ネクスト・サタディ』に収録したが、この本ももう絶版だし、ここに載せておこう。

 スペインにも寒い土地があるんだ、と最初に教えてくれたのはビクトル・エリセの映画だった。『エル・スール』とはスペイン語で「南」という意味だが、この映画の舞台はスペインの北部である。北で生まれた主人公の少女は「南」を見たことがない。
 スペインというとつい地中海に面して暖かくラテンなところと思ってしまうのだけれど、本当は北部もあるし雪も降る。『エル・スール』ではいつも空はどんよりと曇り、決して爽快に晴れることがない。だが「南」はこんなところではないのだという。そこは冬でも雪が降らず、夏には暑くなって日陰でやり過ごす以外何もできないところなのだ。少女にとっての「南」はそんな不思議としてはじまる。だが、そのうちに「南」には新たな意味が生まれる。「南」は最愛の父親の生まれ故郷であり、そして父が捨ててきた場所なのだ。まだ見ぬ「南」は彼女が知らなかった父親の一面として、少女の前にあらわれる。「南」とはどうしても手が届かぬところにあるものすべてなのである。ついに「南」へ旅立つとき、少女は大人になるための一歩を踏みだす。南の民謡として少女が聞く「エン・エル・ムンド」のもの悲しいメロディが忘れがたい。

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コメント

エリセ監督のインタビューによると本当は「南編」も含めた長編映画にする予定だったけど予算不足で「北編」だけになってしまったとか。でも私はこれでよかったと思っています。
今春に出た「エル・スール」原作本(エリセ元夫人作)も興味深く読みました。短編に近い中編小説ですが「南」まで描かれています。
成長したエストレリャを演じた女の子は、現在映画監督になっているんですね…。

投稿: マヌルねこ | 2009-05-30 21:40

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