目白雑録3
金井美恵子のエッセイ集第三弾。実は珍しく文芸誌に書いた原稿が金井美恵子の目に留まってネタとして料理されてしまったのである。中原昌也が芥川賞候補になったときの待機宴会ルポを〈小説トリッパー〉に書いたのだが、それが「菊池寛の呪縛」と題する回で取り上げられているのだ。
むろん、「特別企画 中原昌也の現在」の二つの「芥川賞選考当日ドキュメント」は、かなり遠回しの芥川賞選考についての批判をこめた、仲間同士の友情と中原の小説に対する支持に満ちた楽しいお祭り騒ぎの集いの顛末を報告した読み物なのであり、新潮社クラブで選考結果を待って中原のために集まっている人たちは「なんらかの正義が来たりうることを期待しているよう」で、そのせいで「理由なき多幸感はいや増し、「もしもこの世に正義があるなら、天は我らに勝利を授けてくれるはず、中原昌也に芥川賞を与えてくれるはず」で「他の候補作など読んでいない(読む気もない)が、それが天の石田というくらいはぼく(柳下毅一郎のことである。引用者)にもわかる」と、不出来な翻訳のハードボイルド調というか、村上春樹のパロディ風のギャグ調になってしまうのも、理解できないわけではないし、もちろん、これはあの菊池寛の呪縛から一時解放されるための民俗学的遊戯なのかも知れない。(p.38)「不出来な翻訳のハードボイルド調」……ディスられて改めて思い知る比喩表現の巧みさ。今後もさらに金井美恵子の目にとまってさらに華麗にディスられるよう精進していきたい!と思ったが残念ながらその後中原が文学の世界から足を洗ってしまったので、ぼくがこういうところに文章を書くこともなくなってしまった。一度きりの経験を大事に胸に抱えて生きていきたい。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント