頗る非常! 怪人活弁士・駒田好洋の巡業奇聞
『頗る非常!』(前川公美夫 新潮社)を読む。これはたいへんな労作。
駒田好洋とは日本における弁士の草分けで、派手な巡業隊を仕立てて日本中津々浦々まで巡回興行にまわったことで知られている。本書は都新聞に連載された駒田の巡業記の復刻なのだが、これがもう抜群におもしろい。いまだ映画が産業化されておらず、中央集権も確立されていない時代のことゆえ、各地をしきる興業のボスも山師やヤクザの親分みたいな連中ばかりだし、そういう輩と口八丁で渡りあい、夜逃げ朝逃げをくりかえす駒田の巡業行はほとんど痛快な冒険譚のノリである。北海道に呼ばれて、利尻島のヤクザの賭場で映画を上映する話なぞとても実話とは信じられないようなおもしろさ。
この本がすごいのは、ただ駒田の巡業記を復刻するだけではなく、日本中の市町村に問い合わせ、新聞の広告をしらべて、当時の劇場や興行主の名前、巡業経路までをも確認していること。ものすごい手間をかけたおかげで、かけがえない本ができた。著者は元北海道新聞編集委員だそうで、なるほどこれは新聞記者の仕事である(映画評論家ではこんな本は作れまい)。
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