三十路兄嫁 夜這い狂い (2000)
まあなんかの間違いで見てしまうということはあるだろう。あるいはピンク映画、または映画はすべて見るという欲望に駆られて見に行く人もいるかもしれない。でも、わざわざこんなものを見ようと思って劇場に出かけるような酔狂はぼくぐらいしかおるまい。日本でただ一人? いや、ということは世界でもぼく一人なのか? なんかすごいことをしているような気がしてきたが、たんに時間の無駄をしているだけのことである。
前振りが長くなってしまったが、池袋シネロマンに『兄嫁の夜這い すすり泣く三十七歳』を見に行った。2000年の関良平監督『三十路兄嫁 夜這い狂い 』の改題版。『わいせつ女獣』を見てからというもの関良平作品の奇怪なる魅力から離れられなくなってしまったのである。その期待にたがわず、映画はすさまじくシュールな展開を見せる。
ヒロインはフィリピン人ホステスのような顔をした寸胴の女、鈴木エリカ。なぜか片言の関西弁で喋る。ものすごく下手な主題歌があるのだが、ベッド際にレコジャケが飾ってあったところを見るとこの鈴木エリカが歌っているらしい。歌手でもあるのだろうか? 是非全曲聞いてみたいものだ。
ミサ(鈴木エリカ)は相模原あたりのログハウスに住んでいる。ある日黙ってバスに乗って出過桁ミサは謎の男と抱き合っている……かと思うと家に帰ってきてネギを刻んでいる。実は「おっちゃん」と呼ぶ中年男の貞淑な妻なのだ。この映画、自由自在に登場人物の妄想と過去と現在とが切り替わるので、見ていてもそれが現実に起こっていることなのかただの妄想なのかまったくわからない(「現実」部分にもリアリズムはかけらもないので、すべてが妄想でもおかしくない)。きわめて難解きわまりない映画なのである。
「おっちゃん」はミサに、三年ぶりに弟が帰ってくると告げる。ミサと弟アキラとはかつて過ちを犯したことがあり、アキラはそのために家を出てしまったのだ。ところでミサの旦那は最後まで「おっちゃん」としか呼ばれないので、名前があるのかどうかもわからない。弟からさえ「おっちゃん」と呼ばれるのだ!
ミサと弟を家におき、出かけた「おっちゃん」は高校生と援交の真っ最中。「どこか静かなところに行きましょ」と誘われた「おっちゃん」は車で河原に向かう(なぜだ!)。ひとりきり石投げして遊んだあと、今度は森の中で追いかけっこ。腹の出た「おっちゃん」が息を切らしてひいひい言ってると、女子高生は立ち止まってパンツを脱ぎはじめる。「あれ、おしっこしたいの?」(違うだろ!)さっしの悪すぎる「おっちゃん」も顔を胯間に押しつけられるとようやくその気になっていきなりその場ではじめる。「おっちゃん」と女子高生のセックスはカットが変わるたびにやってる場所が変わるシュールなシークェンスで、テトラポッドにつかまってやってたかと思うと神社に飛び、最後は稲刈りの済んだ田圃で超ロングの騎乗位。なんだかラス・メイヤー映画のようだった(編集・関良平)。
そのころ、最初にミサと浮気していたバーテンは巨大な蝶々のイヤリングをつけた女をバーカウンターの上に横たえ、セックスの真っ最中だった。
「あの関西弁の女はどうなったの?」
「どうなろうとおまえには関係ないし、俺にも関係ない」
「だからあなたと付きあうと人は変わってしまうのね……あの女もいずれは」
ロブ=グリエそこのけの茫漠とした会話を交わしていると、アキラとの再会で情欲に火がついたミサから電話がかかってくる。「ねえ、テレホンセックスしてくれない?」
「いいとも。今、ちょうど他の女を抱いているところだ」
……ってクンニしながらテレホンセックスは無理だから!
ああ、謎のセックス・シーンとか奇妙なカメラ・アングルとか不思議な母乳とかに触れているヒマがなくなってしまった。ドリス・ウィッシュマン+ラス・メイヤーともいうべき、ある意味今年見た中でいちばん凄い映画である。ぼくがピンク映画を見始めたきっかけのひとつ、他のどこにもない映画表現を求める探究心はまちがいなく満たしてくれる映画であった。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント