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2008-01-27

Welt am Draht (1973)

Weltamdraht2 監督・脚本:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー 出演:クラウス・レーヴィッチェ

 原作はダニエル・F・ガロイの『模造世界』。エメリッヒが作った『13F』と同じ原作に基づく(リメイクではない)。ファスビンダーがドイツのテレビ局で作ったSFドラマで、前後二回シリーズで四時間という代物。以前から見たいと思っていたのだが、最近ようやく入手できた。

 スーパーコンピュータでシミュレーション社会を作る実験をしていた研究所長ヴォルマーが急死した。後をついだスティラー(クラウス・レーヴィッチェ)の目の前で、警備局長ラウセが突然姿を消す。だが、ラウセなんていう人間は最初からいなかった、と研究所の人々は声を揃えるのである。

 SFXを使わない、いわば『アルファヴィル』タイプのSFなので、出てくるのは普通の街角。やたらと鏡を使いまくり、鏡の反射と実像で切り返したりするファスビンダー流の映像マジックが全開する。すべてが反射で実像は存在せず、人はつねに鏡や窓の枠の中に入っている。もちろんそれはこの物語が人造社会、人の作った模造世界の話だからである。

Weltamdraht_neu  物語自体は後半ただのアクションものになってしまい、主人公の実存不安まで行かないところが残念。広いカフェやオフィスを借り切って、人がいない中で延々と長回しの芝居を撮っているのを見ていると、なんとも贅沢な撮り方だな……という気がしてくるのは倒錯しているのだろうか。たぶん今ならCGを使って短いカットで細切れの映画を作る方が、はるかに安くあがってしまうはずだ。

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2008-01-25

『蒸気駆動の少年』発売記念トークイベント@オリオン書房ノルテ店

62201 河出書房新社より2月18日に発売予定の奇想コレクション『蒸気駆動の少年』(ジョン・スラデック著 柳下毅一郎編訳)の発売を記念しまして、立川のオリオン書房ノルテ店にてトークイベントを行います。

2/24(日) 17:00~  柳下毅一郎×法月綸太郎×大森望

なんと京都から法月先生をお迎えする超豪華布陣! 入場料500円いただきますが、元は取れると思いますよ! 詳しくはオリオン書房の告知ページまで。

参加ご希望のお客様は、電話・メール・店頭にて席のご予約をお願い申し上げます。
TEL 042-522-1231 shirakawa@orionshobo.com

みなさまふるってご参加下さい。

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2008-01-23

すみれ人形 (2007)

05 監督・脚本:金子雅和 公式サイト

 映画美学校の卒業制作として作られた自主映画作品。行方不明になった妹を追い求める腹話術の男。二人羽織のストリップが妖しくも美しい。

 正直なところ、まだ整理が足りないんじゃないかと思えてしまう部分もあるのだが、いくつかのキー・イメージはすばらしく鮮烈。できたら16ミリで撮ってほしかった(撮影が大変頑張っているのはわかるだけになおさら)。是非とも畸形への偏愛を突き詰め、日本のホドロフスキーを目指していただきたい。

 今週末からアップリンク・ファクトリーでレイトショー公開

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2008-01-22

銀色のシーズン (2008)

0_36858300_1175791450 監督:羽住英一郎 出演;瑛太、田中麗奈 公式サイト

これ、実際に見ないかぎりとうてい信じられないような物語。そういうわけなんでネタバレします。 嫌な人は読まないでください。



 さて、瑛太が演じているのはモーグルの元ワールドカップ選手だったが、ジャンプの失敗で大怪我を負って以来競技を離れてゲレンデで当たり屋をやってい る山猿雪猿。彼の住む桃山村は村おこしのために氷ブロックでチャペルを建て、「ホワイトウェディング」として売り出そうとしている。ホワイ トウェディング第一号としてやってきたのが田中麗奈。スキーマニアの婚約者が申しこんだというのだが、自分は雪を見るのもはじめて。えっちらおっちら下手 くそな練習してるところを瑛太に目をつけられ、個人レッスンを受けることになる。

 さて、そんなある日、白馬の山頂からスキーで滑りたいと思った瑛太は、バズーカ砲(!)を取り出して向かいの山に向けて射撃する。表層雪崩を起こして、そのあとを滑ろうとい う寸法だ。だが、その弾は見事氷のチャペルに命中! チャペルは崩壊して結婚式はできなくなってしまう。村人たちは慌てて田中麗奈の実家に連絡するが、実 は田中麗奈の婚約者は半年前に死んでいたことが判明する。田中麗奈は「すいませんでした…」と大金置いて姿を消す。

 最後は瑛太が隣のスキー場で開かれた大会に参加し、飛び入りで滑って転けてでも立ち上がって (半年前に死んだ婚約者が忘れられず偽の結婚式までしようとした)田中麗奈とラブラブになっておしまい。いやーすごかった。ちなみに瑛太が自分が破壊した チャペルに行って、直すのかと思ったら残骸の氷レンガを投げ捨てたのには笑った。村おこしの費用がすべてパーになってしかもキャンセル料その他で大 借金を背負ったであろう桃山村が倒産するのは間違いないことでしょう。

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2008-01-19

2007年映画ベスト10

映画秘宝のベスト10発表号が発売になったんで、ぼくのベスト投票をここに転載しておきます。

  1. 〈グラインドハウス〉(07 クエンティン・タランティーノ+ロバート・ロドリゲス)
  2. 〈ラザロ〉(06 井土紀州)
  3. What is it? (05 クリスピン・ヘリオン・グローヴァー)
  4. 『狂気の海』(07 高橋洋)
  5. 『高麗葬』(63 キム・ギヨン)
  6. 『ブラックブック』(06 ポール・バーホーベン)
  7. 『コロッサル・ユース』(06 ペドロ・コスタ)
  8. 『転校生~さよならあなた』(07 大林宣彦)
  9. 『アポカリプト』(メル・ギブソン)
  10. 『奴隷』(07 佐藤吏)

 タランティーノに映画の魂を見た。なぜ70年代の低予算アクション映画があんなに我々の心をとらえるのか、その答えをタランティーノが教えてくれた。あの性急さと御都合主義、生々しい肉体活劇の中にこそ映画の本質である何かが眠っている。〈ラザロ〉や『狂気の海』もまた、低予算であるがゆえに映画の魂を掴みえたのだ。まこと金持ちが天国に入るのは難しい、とイエスが言うとおりである。

 ワーストやらは本誌の方を見てください。全体投票は、なぜ〈グラインドハウス〉の票をまとめなかったのかわかりません。梅澤くん(童貞二号)の驚異の大躍進に笑う。

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2008-01-17

ラスト、コーション (2007)

監督:李安 主演:トニー・レオン、湯唯

脇毛、がっかりおっぱい、麻雀……あとなんだろ。反日? まあそういう感じの映画。

これ、よく考えたらマゾヒズムの話なんだなあ。主演がトニー・レオンだったりするので、なんとなく「男の虚無的な影に惹かれ……」みたいな印象に なっているけれど、原作では「狐のような顔をした男」つまりれっきとしたキモメンらしい。売国奴のキモメンにスパイとして身を捧げる女スパイがマゾヒスト としての本性にめざめる……という話なのだろう。でも、アン・リーって本質的に変態じゃないから、どうもそこの勘所がわかってないよね。

この映画もどうやら『汚名』をイメージしているようで、実際劇中に『断崖』のポスターが出てきたりするんだけど、ヒッチコックはまごうことなき変態で、『汚名』は完全にマゾヒストの映画だからね。

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2008-01-07

進化する映像×リアリティ

51du2sfhbhl_ss500_  シネセゾン渋谷にて開催中の〈エスクァイア・シネマテーク〉にてトークをします。
 〈エスクァイア〉今月号の特集の中でそれぞれ映画評論家が選んだ作品が上映されるわけですが、ぼくがセレクトした中からは『死神博士の栄光と没落』、『夜と霧』、『チチカット・フォーリーズ』、『アトミック・カフェ』、『スティーヴィー』の5本。今週土曜日に上映される『夜と霧』、『スティーヴィー』のそれぞれ上 映前のトークとなります。

1/12(土) 15:30〜 『夜と霧』+トーク(柳下毅一郎)
             17:30〜 『スティーヴィー』+トーク(柳下毅一郎×松江哲明)

 その他スケジュールは公式サイトにて。いろいろ情報が錯綜しておりましたが、これが正式版です。お騒がせしましたが、どうかよろしく。

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2008-01-06

鬼輪番 (1974)

監督:坪島孝 出演:近藤正臣、荒牧啓子、佐藤慶 原作:小池一夫

 ラピュタ阿佐ヶ谷の〈岸田森特集〉にて。タイトルは「おにわばん」と読む。地獄の特訓で鬼神のように強くなった「お庭番」のこと。小池一夫イズムだなあ。

 近藤正臣はじめ五人の少年少女は地獄の特訓で鬼と化す。これ、90分ないくらいの映画なのだが、鬼になるまでで三分の一以上使っている。どう考えても長いのだが、こ れが全然ダレない。毎回スーパーヒーロー映画を見るたびに「スーパーヒーローものにオリジンは要らない(=ヒーローになったところから話をはじめればい い)」と言っているのだが、オリジンと特訓は違う。映画には特訓がなければならない!

『あずみ』そこのけの特訓で仲間はどんどん死んでゆき、最後に残ったのは五人。卒業試験は忍者であるからして当然セックスだ。「おまえたち は攻、防の術は学んだ。あとは探の術じゃ!」というわけで五人の紅一点小坊師は処女を奪われた上、童貞だった仲間四人に次々に犯される。童貞喪失した兄弟 たちは切れぬ絆を結んで「親鬼」たちに反抗するのだ……これぞ小池イズムというものだ! 『あずみ』ももうちょっと小池イズムがあれば面白くなったのにね。

 ちなみに五人の「鬼」は紀州公の謀反の根を断つために陰謀を紀州に潜入するのだが、「裏の裏をかくのだ」と言っていちばんバレやすいやりかたで侵入を試みる。いやそれ隠密行動の意味何もないから!

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2008-01-05

Crash! (1971)

 J・G・バラードが小説『クラッシュ』を書いたのは1973年のことだが、もちろんあの小説は突然誕生したわけではない。バラード読みなら当然知っているが、『クラッシュ』には先行作品がある。『残虐行為展覧会』に収録されている「衝突!」crash!という短篇だ。ジェイムズ・ディーンやジェイン・マンスフィールドの事故死にまつわる強迫観念が開陳され、これがやがて『クラッシュ』に描かれる自動車最終戦争の黙示へと広がっていく。
 あまり知られていないのだが、実は本作は映像化されている。ハーレー・コークリスというBBCのディレクターが作った実験映画のようなものである。長年見たいと思っていたのだが、ひょんなことからyoutubeにあるのを発見した。

 なかなか興味深い作品である。いかにもバラード・ファンが作りそうな自主映画だ、という意味も含めて(たとえば今ぼくが映画を撮ったら、たぶんこんな感じのものを作ってしまうだろう)。監督のコークリスは、その後アメリカで何本か映画を撮っている。
 若き日のバラード本人(ナレーションも)ももちろん見所だが、注目は相手役を務めている女優。これなんと、ガブリエル・ドレイク。『謎の円盤UFO』のエリス中尉である! まさかこんなところでバラードとサンダーバードがつながるとは。ちなみに『クラッシュ』に登場する不具者ガブリエル(クローネンバーグの映画ではロザンナ・アークェットが演じた)の名は、彼女から取られているのだそうだ。

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2008-01-01

あけましておめでとうございます

 年頭でもあることなので、今年の予定をちょっと記しておきます。翻訳は現在決まっているのは二冊。ジョン・スラデックの『蒸気駆動の少年』(河出書房新社)は奇想コレクションから二月下旬発売。ありあまる才能を全力で無駄遣いしまくった作家スラデックの全貌をはじめてご紹介できるのは何よりの喜びです。ぼくは編集と一部翻訳を担当していますが、超豪華翻訳陣だけでも一見の価値はありでしょう。現状でも四五〇頁を越え、奇想コレクション最大のボリュームになる予定。「やってしまった……」という達成感がただよっていますが、何をやってしまったのかはよくわからない。ラインナップ等についてはもう少し発売日が近づいてから。なお、発売記念イベントも二月中旬に予定しております。

 もう一冊はJ・G・バラードの『クラッシュ』。かつてペヨトル工房から出ていた本ですが、三月に創元推理文庫から初の文庫化となります。昔の翻訳に手を入れ出すともう大変なことに……

 あと、まだ具体的に発表できる段階ではありませんが、洋泉社から出ていた殺人マニアムック『Murder Watcher』も定期刊行化に向けて動いています。雑誌では〈S-Fマガジン〉で二月頃から映画評を連載予定。あと、いくつか企画中の本もあって、今年もまずまず忙しくなりそう。では、本年もよろしくおねがいいたします。

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