ジャック・ケルアック 『オン・ザ・ロード』
以前からぼくは「ケルアックはまだイケる」と言い張っていたんだけど、この新訳でようやくそれが証明されたと思う。ケルアックは良くも悪くもハ シカのように若いころにかぶれるものだと思われていて、そんなものは大人の読み物ではないから「今さらケルアックでもないだろ」と決めつけられて、そのまま読まれずじまいになっているような気がする。で も、そうじゃないのだ。たしかに『オン・ザ・ロード』に描かれている世界は過去のものとなったかもしれないが、その魂は今もなお有効だ。
これまでの翻訳があまりにあまりだったので、単なる幼稚な自意識の垂れ流しとして理解されてしまったのかもしれないが、今回、青山南氏 の翻訳ではじめて、ケルアックがいかに繊細で生彩に富む文章をものにする優れた文章家だったかもわかるし、サルとディーン・モリアーティ(ニール・キャサ ディ)のせつない愛憎関係は腐女子のハートをわしづかみだろう。願わくば、すべての若者がこれを手にしてヒッチハイクの旅に出ますように(そう、ハシカと しての効果もやっぱりあるのだ)。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
はじめまして。YYT(大澤遼)と申します。
> これまでの翻訳があまりにあまりだったので
ジャック・ケルアックの「On the Road」をすべての文学の頂点であると考えているものですが、私にとっては、福田実訳>青山南訳、なのです。*ごめんなさい (実際には、ジャズのリズムをそのまま文章にしたケルアックの文体は英語でしか味わえないのですが・・・)
青山南訳の齟齬をあげると、
(1) 還暦を迎えられた名翻訳者によって書かれているので、文章はさすがに非常にこなれているが、全体に若者特有の躍動感がない。
(2) P1の「naive」をそのまま「ナイーブ」と訳されていること。*物語のヒーローであるディーンには「ナイーブ」の日本語の意味である「繊細さ」の欠片もないはず。 ここは無邪気と訳すべきです。
(3) 第五部のはじめの「白髪の背の高い老人」の描写で「どたどた」という表現を使っていること。(原文の「clomp」には確かにその意味はあるのだが) このためこの作品の象徴でもある「白髪の背の高い老人」から「神性」が失われてしまった。*ちなみに、私の持っているスペイン語訳「En el camino」では「疲れた足取りで」と訳されています。こちらのほうが私のイメージはあう。
あなたにとって、読みたくないコメントかも知れないのを投稿したかも知れません。そのことを最後にお詫びしておきます。
投稿: YYT | 2010-06-30 17:36