鬼火 (1956)
ラピュタ阿佐ヶ谷の「添え物映画百花繚乱 SPパラダイス!」にて。
このころの日本映画を見ていつも驚かされるのがハードコアな貧乏描写である。格差社会とかいうけどしょせんは相対的貧困。絶対的貧困の前には顔色なし。同時にその貧乏を 描く映画の圧倒的な豊かさがある。貧乏長屋をすべてセットで作ってしまう、今では絶対に不可能な贅沢。矛盾というかねじれというか、この奇妙さにはいつも打たれ る。
映画の黄金時代は凄い。本作なんか40分ほどの短篇なのに、脚本菊島隆三、音楽伊福部昭である。ガス料金徴収人の加藤大介がふすまから ちょいと伸びた女のふくらはぎに目をつけてじりじりと廊下にあがりこもうとすると、伊福部調のサスペンス音楽が……やがて中古智が建てたものすごく美しい あばら屋で暮らす、宮口精二と津島恵子夫婦のところに加藤大介が料金徴収に行ったことから……加藤大介がいつも汗を拭いている、あの「暑さ」の描写が圧倒的だ。昔の日本は暑かった。
場内は満員。映画オタクが集まるのはわかるんだが、普通のおばはんとか来ていたのはなぜなのか。併映の宮城まり子主演作を見に来たのだろうか? ちなみに宮城まりこはバラックに住むくず屋の娘で「一九才なのに鼻に煤がついてるから誰もわたしを見てくれない~」とか歌っていた。
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