2017-06-10

[この殺人本がすごい] 深笛 義也『罠 埼玉愛犬家殺人事件は日本犯罪史上最大級の大量殺人だった!』

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関根元の埼玉愛犬家殺人事件にまつわる本がまた出てしまった!高田耀山『仁義の報復』は関根に舎弟を透明にされてしまったヤクザの組長が書いた本だったが、今度は三里塚闘争にも参加していた過去を持つ新左翼活動家崩れのルポライターといういかにもゴールデン街あたりに吹き溜まっていそうな作家だ。深笛義也『罠 埼玉愛犬家殺人事件は日本犯罪史上最大級の大量殺人だった!』(サイゾー)である。

 埼玉愛犬家殺人事件においては、関根元と風間博子に死刑判決が出て確定、共犯者だった山崎は死体損壊の罪で三年服役した。関根が獄中死したのも記憶に新しい。さて、この事件にはいろいろと問題があるのだが、その最たるものが風間の役割である。風間は死体損壊遺棄は手伝ったものの、殺害には一切関与してないと一貫して主張している。だが、裁判では関根の証言に基づき、風間が殺人の共犯者と認定された。風間は現在も無罪を主張し、再審闘争を続けている。

 筆者はたまたま風間の支援者と知り合いになり、膨大な裁判資料を渡されたことから裁判に興味をいだいたらしい。資料を読みこむうちに、検察の作ったストーリーの不自然さに気づいてしまう。つまり、風間は殺人のことなど何も知らず、事後従犯としていやいや死体損壊(透明にする!)につきあわされただけではなかったのか。山崎が語って有名になった、中村美律子を口ずさみながら死体を切り刻む風間の姿は文学的創作ではないのか。高田組の組長代行殺害の共犯は山崎ではなかったのか。もしそうだとしたら、誰が、なぜ風間が主犯であるというストーリーを作りあげ、なぜそれがまかりとおってしまったのか。

 その意味で、事件の真のキーパーソンは埼玉地検の岩橋検事なのではないか……と筆者は岩橋検事に直接取材も試みる。さすがは元活動家だ! 風間の息子や二人のあいだの娘の率直な肉声も聞こえ、なかなかに興味深い。

「事件を知ってすぐに、風間が警察に相談をしていれば、判決はまるで違ったものになっていたかもしれないのだ。早い者勝ちで有利な判決が得られるなら、裁判とはいったいなんなのだろうか」
風間博子はなおも無罪の訴えを続けている。


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2017-06-02

スキップ・ホランズワース『ミッドナイト・アサシン』

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 ぼくがスキップ・ホランズワースの名前を知ったのはBest American Crime Writingsのシリーズを読んでいたときである。〈ニューヨーカー〉や〈エスクァイア〉といった雑誌に並んで、〈テキサス・マンスリー〉という地方雑誌の記事が再録されている。そこでメジャー雑誌にまさるともおとらぬ見事な犯罪ルポを書いていたのが〈テキサス・マンスリー〉のエース記者であるスキップ・ホランズワースだったのだ。簡潔な文体と行き届いた取材、意表を突くプロット。犯罪ノンフィクションのお手本のような名品ばかりである。多くは〈テキサス・マンスリー〉から出ているアンソロジーで読むことができる
 そのホランズワース、初の長編ノンフィクションがようやく出版された。『ミッドナイト・アサシン』は一八八四年、テキサス州オースチンで発生した「アメリカ初の連続殺人事件」についての本である。疾風のようにあらわれて証拠を何一つ残さず消えてしまう殺人鬼、実はさる事件との関連が疑われることになるのだが……たいへん面白い本なので是非。ぼくは解説を寄せさせていただいております。


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2017-05-28

バラード短編全集 終着の浜辺

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東京創元社より刊行中の〈J・G・バラード短編全集〉第三巻『終着の浜辺』が出版されました。ようやく折り返し点を超えた! 代表作「終着の浜辺」や「溺れた巨人」など名作だらかですが、個人的にはバラードのUFO小説「ヴィーナスの狩人」が今あらためて読み直すとなかなかに興味深かったですね。なお、次巻はいよいよクライマックスで、怒涛の革命時代の到来です!


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2017-05-26

異形の愛

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 キャサリン・ダンの『異形の愛』が河出書房新社から復刊されました。個人的にはJ・G・バラードの『クラッシュ』の次くらいに思い入れのあった翻訳なので、何よりも嬉しいことです。今はなきペヨトル工房から1996年に出版された翻訳でしたが、2000年のペヨトル解散とともに絶版、そのまま翻訳書の辺土をさまよっていた本がようやく復刊にこぎつけたという次第。ぼくがこの本を手がけることになった経緯は〈漫画アクション〉に書いたとおりだけれど、その後もとうてい書けないいろんなことがありました。まあ担当編集者が村崎百郎氏だったのだからね、そりゃあいろいろある。内容についてはくだくだ書くことはしません。知っている人は知っているでしょうから、届くべき人のところにはかならず届くことでしょう。

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2017-02-24

2017年オスカー予想@TVbros

現在発売中のTV Bros 2017年2/25日号で、渡辺麻紀さんと恒例になりましたアカデミー賞予想対談をやっています。てかまあ予想の意味はほとんどないんで、ぼくが『ラ・ラ・ランド』をひたすらけなしてるだけの対談なんですけどね! 以下予想(◎)と、ぼくがいちばん優れていると思う作品(×)とを書いておきますね

作品賞
「メッセージ」
Fences
×Hacksaw Ridge
「最後の追跡」
Hidden Figures
◎「ラ・ラ・ランド」
「LION/ライオン~25年目のただいま~」
「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
「ムーンライト」

監督賞
ドゥニ・ヴィルヌーヴ(「メッセージ」)
×メル・ギブソン(Hacksaw Ridge)
◎デイミアン・チャゼル(「ラ・ラ・ランド」)
ケネス・ロナーガン(「マンチェスター・バイ・ザ・シー」)
バリー・ジェンキンズ(「ムーンライト」)
トム・フォード(Nocturnal Animals)

主演男優賞
ケイシー・アフレック(「マンチェスター・バイ・ザ・シー」)
アンドリュー・ガーフィールド(Hacksaw Ridge)
◎ライアン・ゴズリング(「ラ・ラ・ランド」)
×ヴィゴ・モーテンセン(「はじまりへの旅」)
デンゼル・ワシントン(Fences)

主演女優賞
×イザベル・ユペール(Elle)
ルース・ネッガ(「ラビング 愛という名前のふたり」)
ナタリー・ポートマン(「ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命」)
◎エマ・ストーン(「ラ・ラ・ランド」)
メリル・ストリープ(「マダム・フローレンス!夢見るふたり」)

助演男優賞
マハーシャラ・アリ(「ムーンライト」)
◎×ジェフ・ブリッジス(「最後の追跡」)(老人枠)
ルーカス・ヘッジズ(「マンチェスター・バイ・ザ・シー」)
デヴ・パテル(「LION/ライオン~25年目のただいま~」)
マイケル・シャノン(Nocturnal Animals)

助演女優賞
◎ヴィオラ・デイヴィス(Fences)
ナオミ・ハリス(「ムーンライト」)
ニコール・キッドマン(「LION/ライオン~25年目のただいま~」)
オクタヴィア・スペンサー(Hidden Figures)
ミシェル・ウィリアムズ(「マンチェスター・バイ・ザ・シー」)

 そういうわけで、メル・ギブスンは人間はクズかもしれないが映画は素晴らしいという結論です。あと今年のなんでノミネートされたんだろう枠は『LION/ライオン~25年目のただいま~』でした!

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2017-01-21

2016年映画ベスト10

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映画秘宝2017年3月号が発売になりました。ベスト10が発表になったので、ぼくの投票も転載します(実は年末のイベントでも発表していました)。

1『悦楽交差点』(15 城定秀夫)
2『スティーヴ・ジョブズ』(15 ダニー・ボイル)
3『ふにゃちん哀愁』(16 バクシーシ山下)
4『サファリ』(16 ウルリヒ・ザイドル)
5『ディストラクション・ベイビーズ』(16 真利子哲也)
6『太平洋の地獄 サイパン水着ギャルの戦争』(91 高槻彰、平野勝之)
7『SHARING』(16 篠崎誠)
8『デッドプール』(16 ティム・ミラー)
9『ダゲレオタイプの女』(16 黒沢清)
10『ドロメ 女子篇』(16 内藤瑛亮)

コメント、トホホその他は本誌を参照して欲しいですが、やはりふにゃちんの衝撃がなああ。バクシーシ山下はやはりヤバいです。

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2017-01-18

[この殺人本がすごい] 西村望『無宿人の墨縄』

  西村望の1981年作品は明治時代に愛媛県を荒らしまわった強盗殺人犯「強盗亀」こと池田亀五郎の生涯を小説化したもの。小説内では「山内勘三郎」として登場する。「強盗亀」というのはすばらしく面白い人物で、愛人を三人同時に抱えて同居させ、警察に逮捕されそうになったときには懐中から取り出した六連発拳銃を乱射して切り抜ける。三人の“妻”は刀を振りかざして暴れまわるというわけで、それってどう考えても『チャーリーズ・エンジェル』ではないか! 明治の日本は凄かったなあ。

 勘三郎は電線を見て考え込む。愛媛の田舎に電線が来る。それはとりもなおさず電信網が整備され、警察の機動的配置が可能になるということである。そのとき、勘三郎のような足で山の中を逃げる強盗、いわば山賊の居場所はなくなってしまうだろう。彼らもまた近代と前近代のはざまに生きる鵺のような妖怪なのである。

 小説なのでもちろん名前だけでなくいろいろ改変されているが、西村望だけにすらすら読めて面白い。西村望の殺人ものというともちろん『丑三つの村』がいちばん有名なわけだが、それ以外にも実録小説はいくつもあり、どれもおもしろい。西村兄弟というとどうしても寿行のほうが注目されてしまうんだけど、西村望研究もちょっとやっていきたいと思っている。

 なお、「強盗亀」の実像については朝倉喬司が『怪盗疾る』というノンフィクションを書いている。興味のある人はこちらもぜひ。亀は捕縛後に自伝を書いているのだが、それ読みたいんだよね。

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2017-01-11

[この殺人本がすごい] 高田耀山『仁義の報復』

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 関根元の「埼玉愛犬家殺人事件」といえば風間博子の無罪主張とか、共犯者山崎永幸の証言とか、いろいろ謎の多い事件として知られているが、これに関して新しい本が出た。なんと関根に「透明にされた」ヤクザの組長による暴露本である。高田耀山『仁義の報復』(竹書房)である。いきなり開くと

「実はわたしは座禅と瞑想を続けたおかげで、チャクラが覚醒している。チャクラが覚醒した者のみが見える眼で関根の犯行がわかったのだ」

 とか書いてある。第三の目が開いたヤクザなのか! しかもこの高田組長(稲川会の直参で、本部づとめもしているかなりの大物である)、アフリカケンネルからライオンやトラを購入し、関根とは直接面識もあったというのだから期待はさらに高まる。十人以上殺しているという関根の真実ははたして暴かれるのか?
 高田によれば、遠藤(殺された組長代行)の失踪後、第三の目で関根が怪しいと見抜いた高田は、部下に命じて関根とつながりのあった新井良治をさらわせ、関根との電話による会話を録音する。そのやりとりで関根の関与を確信すると、さっそく報復に出ようとするが、それを察知した警察からの圧力で動けない。そこで逆にその会話の盗聴テープを警察に提供し、捜査を大いに進めたという。
 それ以外にも山崎を問い詰めたり、警察よりも早く事件の概要を掴んでいたとする主張多数。でもそのわりには公表されている以上の情報はないんだよなあ(十人以上殺していると書きながら、関根の犠牲者の名前が四人以上あがるわけではない)。チャクラ開いてるわりには関根にかまかけたり脅したりしてるばかりで、公表されてる以上の話がないんだよなあ……ただし共犯者山崎が警察と実質的な司法取引をして罪を逃れたという点はきっちり書いており、そのために暗躍した検事のその後の話まで書いてあるのは、まあ、警察には書けないことである。瞑想したり滝で水垢離したりしている高田組長の写真が満載されたとってもキュートな本である。なお、高田組長のブログはこちら

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2016-09-29

なんの映画になりたい?

 岡田秀則さんの著書『映画という《物体X》』(立東舎)を読む。われわれが当然のように見ている「映画」を「保存」するとはどういうことなのか、フィルムの物質的側面はもちろん、その外へと縦横に考えが広がっていく気鋭の書である。

 この本の元になった連載を読んでいたときに、いろいろ無駄なことを考えたことを思い出した。mixi日記からサルベージ。

 未来社のPR誌『未来』の3月号に載っていた岡田秀則の原稿(「草を食む映画」)が面白かった。映画フィルムに使われる乳剤の原料はいまだ合成されておらず、牛骨や牛皮から取れるゼラチンを使わなければならないのだという。「私たちがこれまで映画館のスクリーンに見てきたのは、どれもこれも牛の体内物質を通過した光の跡なのである」

 あるいは常識なのかもしれないが、ぼくは知らなかった。こういう話を聞くといろいろな夢想が進む。牛骨からゼラチンがとれるというなら、人骨からはどうなのだろう? たぶん量が足りないから映画は作れないだろうが、もし作れるとしたら?

 遺言に「ぼくの骨からは映画フィルムを作ってくれ」と書いておいたら、骨からフィルムを作って、それをみんなで見てくれないだろうか? これはいいね。少なくとも千の風になって漂ってるよりはずっといい。

 もしそれが可能なら、どんな映画になりたい? やはりファスビンダー(『十三回の新月のある月に』あたりがいいね)と言いたいところだが、コメディでもいいな。生きているあいだは他人への嫌がらせみたいなことばかりしていた身としては、せめて死んだあとくらいは笑ってほしい。ブニュエルで『小間使いの日記』とかどうかなあ。ぼくから作ったブニュエルを見て、みんな笑ってくれるなら、これほど楽しいことはないよ!

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2016-09-27

J・G・バラード短編全集1

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 東京創元社よりJ・G・バラードの全短編を集成した〈J・G・バラード短編全集〉が刊行になります。創元推理文庫から出ていた短編集も、さすがに翻訳が古くなってきたところもあり、あらためて新訳決定版を出そうということになりました。発表順に収録した全五巻での全集ということになります。

 装画にはエドゥアルド・パオロッツイを使用しています。バラードと伴走したポップ・アーティストの作品とともに、バラードのキャリアを走り抜けてください。

 なお、10/8(土)に京都SFフェスティバルにて「いまこそ、バラード。」と題してトークがあります。お近くの方は是非。


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